2021-09-29

数ミリのはなし


朝、バス停につくと、おじさんがいた。
おじさんに、話しかけられる。

「そのキュロットはUNIQLOですか、西友ですか?」
(キュロットってなんだっけ?このズボンってキュロットって名前なんだっけ?)
「インターネットで買ったから、ブランドをしらないです」
「わからないんですかお姉さん?」
「はい」
「わからないって言ってくださいお姉さん」
「わかりません」
「参りましたかお姉さん」
「参りました」

こういうときに限ってバスはなかなかこない。
おじさんは、通りすぎる車の説明をしてくれる。

「どうですか?すごいですか?感心しましたかお姉さん」

女子大が近くにあるので、女子大生がたくさんいる。
「右からもお姉さん、左からもお姉さん、真ん中にもお姉さん」
「あなたもお姉さん」

バスに乗ってからも会話が続く。
駐車場をみておじさんが
「いち、に、さん、しー、ご、ろく、なな、はち、八台。
八台ありますねお姉さん。どうですか、感心しましたかお姉さん」
「チハルさんちは日経新聞だって、お姉さん、どうですか、感心しましたかお姉さん 参りましたか」

私は目的地についたので「さようなら」と声をかけたけど、返事がなかった。
バス停から職場まで二分くらいある。その二分間で、人間について思案する。 
あのおじさんと、私には、どこに違いがあるのかね。
(わからない)


夕暮れ、その帰り道。

画材屋寄って、楽しくなっていろいろ買ったらまさか、まさかのデビットカード残金が足りなくて、若干落ち込んでいるところ、瞼に小さな衝撃走る。
てんとう虫がピンポイントでぶつかってきた。そしてそのまま巾着に入ってた水筒の蓋に着地した。
人混みのまちのなか、一人「えっ」
とびっくりする。
多分てんとう虫もかなりびっくりしていた。
あと数ミリずれてたら、私たち重症だったと思うね。


夜の今。

今日の帰り道は、私の町が、とくに私の町という顔をしていない。
私のたましいは多分まだ、あの団地の11階で家族とまだ暮らしてる。
わりと距離がある。



今日という日を、ふとんの上で思い出すと
やっぱりちょっと変だった。