花を描いて気付く事がたくさんある。
これまでは自画像めいた物だったり、自分の記憶だったりをテーマに、自分の内からわきでてくるものばかりを描いて来たが、花は完全に、「わたし」の範囲からとびだしていて、どうしようとも自分になり得ない。不思議な緊張感と責任感のようなものがある。
今までは黒い絵具(それも、ガツンと黒い、ジェットブラック)の大きなチューブを、短い期間で何本も消費していたけど、最近は鮮やかな色、ピンクや青、赤ばかりが減って行く。それが、すごく新鮮な体験だった。
花は女性に似ていて、私はひげがはえた気持ちになる。良い絵を描きたいという気持ちより、この花の美しさを目の前の紙に封じ込めてやりたいという、今までにない心持ちで描いている。
私はそれを、恋みたいだと思う。花しか描かなくなってしばらく経つので、長らく花に恋し続けてはいる事になるが、「愛する」事はできていないようにも思う。
私と花との関係は、恋でとまっている。人間味があって、なんだかおもしろい。
絵はその関係をうつす鏡となった。
だからとくに、最初の頃にかいた絵なんかは、花に全然興味がなかった時期だから、この絵の作者は花を愛せてないってばれるんじゃないかなあ。
そうやって完成した絵を見てみたら、結構おもしろくて、「絵」そのものに対しても、あー、絵って、鏡にもなるのか。おもしろいなーと、ちょっと感動した。
いつか、花を本当に愛する事が出来るのかな?出来れば長く続けていきたい。
目の前で咲いて、散っていく花が、今は本当に、本当にいとしく、だんだんそんな気持ちがすべての生き物にも沸いてくるようになってきた。生きていてよかった。本当によかった。