サザンクロス

 

少し前、真夜中なのに部屋が明るい。窓をのぞくと、光すぎていた月。
 
今日もまた花を描いている。前の家では場所がなくてしまっていたスツールを、引っ越してから設置できたので、スツールも見て描けるようになった。木目や花瓶の反射を伴ってちゃんとそこにある。ずっと空想を描いていたのでその現象がおもしろく、最近は花よりスツールばかり追っている。描いているあいだは花をあまり見なくなった。多分、意識的に見ないようにしている。

頭で処理した花の輪郭をそのまま紙に写しとることは果たして観察なんだろうかと疑問に思う。細い茎を描くためにわざわざ鉛筆を尖らせて2本の線を引くことは、なんための作業なのか。他でもない、色を塗る時の自分の保険でしかない。私は生活でも絵でも保険ばかり張っている。そしてそれをよく観察だと勘違いしている。嘘なく記録することをなんとなく誠実なような気がしている。多分、実際は、誠実とは遠いもの。手放しても大丈夫なものを不安で手放させずにいるだけ。
 
先日、好きな絵描きのNさんの展示に伺った時、『ゆめちゃんの展示にも伺いますよ』と言われて、弱気になった。きっと興味もないだろうし、まあ、冗談だろう、と思って油断していたら、本当に来てくださった。なにがあったわけでもないが、私は緊張で心臓が止まるかと思った。きっと約束を果たすためだけに来てくれたのだから、申し訳なくもなる。けれど少し嬉しかった。誠実も執着も観察も正解も最近の私はよくわからない、でもこういう小さな約束を大切にする心が私にはまぶしく見えた。