2023-11-29

まほう

 


一回くらいしか行ったことのなかった近所の喫茶店に、最近ふと…、すごく行きたくなって行ってきた。店主のご婦人は、記憶よりもずっと上品できれいだった。レースのブラウスに水色のカーディガンを羽織って、ブローチがぴかっと光った。
窓から柚子の木が見えて、私の席に置かれたコップの底が、緑に反射してきらめきゆれていた。  机にはカーネーションが飾られていて、茎が痛んで折れてしまった(あるいは手入れした)のであろうみじかい一輪は、お手洗いにちいさな花瓶にちょんとさして飾られていてかわいかった。
この店は、時間の層が重なりがきれいだ。
私はその日、普段飲まないロイヤルミルクティーと、ジャムトーストを注文した。
 
重い扉をひらいた先のこの空間は、全部が魔法にかかっているみたい。
私は(どうかこの魔法が、ずっととけませんように)と思った。
それは、とても大切な気付きだったような気がする。
かたちがなくなっても 忘れちゃって思い出せなくなっても、心はずっと魔法にかけられたまま生きる。