ひとしずく




飾っていた絵の中で一番好きな絵が売れ残った。少し嬉しい。
家で眺めていて、やっぱり好きだなと思った。良し悪しじゃなく、ただ好きという感覚。来年になって久しぶりに見たらどうってことない絵になっているかもしれないけど、それくらいでちょうどいい気がする。
 
次は8月に、花の絵の展覧会が決まっている。
その絵たちは恥ずかしいことに、思い入れが非常に強くある。思い入れというより執着かもしれない。こんな気持ちははじめてで、これとどう向き合ったらいいのか分からずにいる。
どうしてそんな感情が芽生えたのか考えると、おそらくその絵を描いたのが今年の一月、猫の命日近くに描いた絵だからなのだろう。情けなくて自分が嫌になる。
そんな訳で、もしかするとものすごく高値をつけるか、非売にするかもしれない。今ずっと悩んでいるので、値段を見て驚かせちゃったらすみません。今のうちにこっそり宣言しておく。売ってしまえば描いたことも忘れて、私はまた新しい絵を描くだろうに、なんだかなあ。

今日は印刷の工場に行って、絵が出力されるところを見た。
ものすごいスピードで刷られる。原画と同じくらい綺麗な発色、筆跡もうまく再現されている。なんかもうみんなコピーでいいんじゃないかなと思うけれど、そんな話ではないんだろう。
でっかい機械はかっこよかった。戦ったら確実に負ける。頭の中ではなぜかずっとチャゲアスの「On Your Mark」が流れていた。ハイテクすぎて、私の頭はおいてけぼりかもしれない。
大きな紙に面付けされて、それを折ったり切ったりして本にしてくれた。本が生まれる瞬間を見たのかも。
外はとても暑くてくらくらした。最寄り駅に停めてた自転車の椅子が熱かった。