やさしい海に


 数日間は絵を描かない方が良い気がした。
 今日は筆をいっさい持たない事にして、髪を切りに吉祥寺に。自分で適当に切った前髪をととのえて貰ったらものすごく短くなり、レオンのマチルダみたいな髪型になった。顔がナタリー・ポートマンみたいな美人じゃないので、ただ前髪切りすぎた人になった。ドライヤーしてくれる時に話しかけられて返事をしてもほぼ私の声は届かないので、へへ…くらいしか喋れない。
 
 喫茶店で「ヌスエッケン」というドイツのお菓子とアイスコーヒーを飲みながら、頂いた本の装画のお仕事のゲラをもう一度読み返した。現代の小説というものを久しぶりに読み、色々な事が頭に浮かぶ。恋愛小説だが、共感出来る点がひとつもないこと。拒絶反応すらあること。それが面白いと思った。私は私の役割を果たそうと思った。自分の視界に入ったその瞬間から、すべて自分事になる。全て私であると思った。だから出来るだけ誠実でありたい。そうでないと勿体ない気がした。頑張る。
 
 気付けば閉店時間になっていて、急いで店を出た。吉祥寺から西荻窪まで歩き、帰りがけよく行く焼き菓子店でクッキーを、パン屋で総菜パンを買った。明日の朝に食べる。明日の楽しみがあると夜も楽しいから良い。ウルトラマリンに少し肌色を混ぜたような水色と優しい桃色の夕暮れに少し欠けた月が白く光っていた。美しい夕暮れだった。ちょうどその頃、父からメールが来る。今日の朝、1月に亡くなった猫が海に帰ったと。また思い出して寂しい気持ちになる。亡くなって3ヶ月と15日くらい。まだ、波がある。けれども海に帰る日が、こんな穏やかできれいな夕暮れの日でよかったと思った。
 
 電車に乗って帰り、もう外は暗い。帰宅し、夕飯を作る。十穀米を炊き、味噌汁を作る。人参、牛蒡、豚ひき肉、コンニャク、白菜。副菜にひじきの煮物とコンニャクの甘辛煮。鰹節多めにいれておかかも作った。鶏肉のさんが焼き(風)を作る。生姜を沢山、味噌は少々入れた。大葉で包んで反面焼き、後はもう片面焼くだけ。美味しいと良いな。あと冷や奴。最近は若干健康ブームなので自炊を頑張っている。今日は早く眠りたい。なんとなく。