no title



 


蜂蜜と小麦粉とバターだけで作って冷凍庫にストックしておいたクッキーを薄めに切って、いただいたゆずピールジャムをはさんだ。 
ジャムは触れるとぺたぺたするが、遠くで見ると宝石みたいで綺麗だ。
 
 
しかし、お金がない。
ほんとにない。
いくらあってもたりないと思うのかもしれない。
底がほとんど見えた状態で暮らすと、行動範囲が狭まる。
家にあるものでどうこうしようと思うようになってくる。
処方されたアレルギー薬は飲まずにとっておく。
数日筆も持ってない。
描きたくないときには描かない方がいい。
 展覧会の数日前、妙なしずけさ。
 
こんな暮らしのほうが、 本当は良いんかもしれないな。
 
きのう少しだけ無理して行ったライブではじめて聴いた「羊羹のブルース」が最高だった。
今日、調べて何度も聴いた。
最近は最高なものをたくさん知ったので、お裾分け。
漫画、『永沢君』・映画、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』・画材、Gペンと墨汁・たべもの、砂糖をちょっと多めにいれた、根菜の煮物・しっかり泡立てただし巻き卵。
 
ライブで、私はよくわからないことをずっと考えていた。
だからちゃんと聴けていないかもしれない。惜しいことをした。
左斜め前の前くらいの男性が、妙な動きで座りながら踊っていた。妙な動きだなあ、と思って何回か見た。
私の入り込む余地もないような世界があったり、そんなもの最初っからなかったみたいな、座席。
 
ふたつの耳が、熱を帯びた大きい音を吸い込んで、もう音程もわからなくなった音らしきものの中で、私がいつのまにか「社会」と呼んでいる実体がないのにあると思っている存在のことや、芸術のことを考えていた。私は会場の一番はじっこに座っていて、私の前の席の人の肩と、その右に立ち上がった人の腕の動き次第で見える彼は絵で、肩と腕が一瞬重なったときそれは額みたいになるので、展覧会みたいだった。けっこう遠くの距離にいる私のもとにまでは、彼の汗や唾液は届かない。ガラスで隔たれていいるような。遠い。遠くてよかった。エアコンが効いていてすずしい。私の絵もきっとそんな感じかな、などと思う。歌を聴けない私は、来るべきじゃなかったんかもしれない。彼はなにを歌って、演奏して、私はなにを描いて、喋って、世間に向けて発表してるんだろうか、と思った。